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創造人生 参考資料

生涯現役論
六〇歳以降の過ごし方を「アクティブ」な視点で考える

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1.円熟世代の誕生

 高齢化は長寿化と少子化によってもたらされているが、特に長寿化の進行は、人生八〇年時代を到来させ、従来のライフサイクルに円熟期という新しい人生時間を誕生させた。円熟期とは、六〇歳代と七〇歳代の年代層のことをここでは指している。(別表−1参照)

 これまでの人生の捉え方は、成長期から成熟期までが現役で、それ以後は現役から引退し完熟期をもって人生は終わるとみられていた。ところが、私たちの寿命が飛躍的に伸びたために、成熟期と完熟期の間に円熟期という人生時間が新たに誕生したのである。


別表−1  円熟期という新しい人生時間と生涯現役指向世代

0 〜 20歳 20 〜 40歳 40 〜 60歳 60 〜 80歳 80 〜  歳
成長期 発展期 成熟期 円熟期 完熟期
現役世代 生涯現役指向世代

 私たちの人生は、現役世代においては事細かに計画されているが、現役引退後の人生についての計画は皆無で、自らの努力で生きていくようになっているのが今日の現実である。

 人生60年、70年時代の人生の捉え方であればそれでも問題は少なかったが、今日ではこの円熟期という二〇年間の人生が新たに誕生したことによって、そうはいかなくなったのである。

 そのために、いま定年退職後の生き方が、新たな課題として取り上げられているのである。

 一方最近の動向として、六〇歳代以降の人たちの中に、現役から引退するのではなく、一生涯を現役で積極的に社会とのかかわりをもち、明るく元気に生活をエンジョイしていこうという人たちが多く見受けられるようになってきている。

 特にその傾向は、この円熟期の世代に高くなっている。

 このように、生涯を現役で積極的に生きていこうする円熟期と完熟期の人たちのことを「生涯現役指向世代」として、ここではみていくことにする。

 現在、円熟期の世代の人たちの数は、実に2千5百万人(2010年)。円熟期と完熟期の世代の人たちを合わせれば、3千5百万人(2010年)にもなる。

 この円熟期と完熟期の世代が、生涯現役を指向して、積極的な社会参加をしていくということは、これからの社会を動かす大きな存在になることは明らかである。

 勿論、生涯学習活動を推進するうえでも大きな影響を及ぼしてくるということである。

 特に、生涯現役を指向する円熟世代の誕生は、量的にもパワー的にも無視できない存在となっているのである。

 そこで本論は、そのような存在となっている円熟世代の六〇歳以降の過ごし方を「アクティブ」な視点から考えてみたものである。

2.生涯現役の生き方とは

 先ずここで言う「生涯現役」とは、生涯現役で働き続けるということではなく、生涯現役で生きていくという意味であって、その生き方は、社会とのかかわりを積極的に持ち、自立して、自分たちの力で、積極的に生涯を現役で生きていくということであると位置づけている。

 したがって、生涯現役とは、歳をとったから生き方を変えるということでなく、また現役から引退した別の生き方をするのでなく、年相応に生きるということでもなく、生涯に渡って自分の望む方法で社会とのかかわりを持って生きていくライフスタイルともいえる。

 また、生涯現役とは、かつての年寄り、老人、といわれていた世代の価値観やライフサイクルとは一線を画した生き方を指向しているともいえる。

3.アクティブな円熟世代

 最近、行楽地や名所旧跡地、登山やハイキング、海外旅行、テニス場やゴルフ場、カルチャーセンター、スポーツセンター、デパートやショッピングセンター等、何処に行っても多くのシルバー世代に出会うようになった。

中でも明るく元気で活動的で積極的な円熟世代が目に付くようになった。

 昨年、ネパールで起きたトレッキング中の事故をはじめ円熟世代の事故が国内・国外をとわず頻繁に起こっている。

 アクティブな円熟世代が、世界中を闊歩しているともいえる。

 また、円熟世代のグループやサークルも多く見かけるようになってきた。

 生涯学習施設をはじめさまざまな研修や学習の場で学ぶ円熟世代も増加してきた。

 ボランティア活動に参加する円熟世代も多くなってきた。


 今日では、このように円熟世代は、積極的に行動してきている。

 そこからは、強いパワーが感じられるのである。

 こうした現象は、ここ十年位の間の大きな変化といえるのではないだろうか。

4.三つの宝物を持った円熟世代

 円熟世代が、なぜこのようにアクティブになれるのだろうか。

 その答えは、三つの宝物を持った世代だからいうことである。

 三つの宝物とは、一つは時間である。

 定年退職により拘束された労働からの解放、子どもの独立による解放等により、自由に使える時間が手に入るのである。

 この自由時間を使って、今までに出来なかったことを実現したり新たなものへの挑戦が可能となっているのである。

 二つ目はお金である。

 これまでの蓄えや年金の受給により日常の生活には困らなくなっている。

 また、資金の余裕は、お金のかかる海外旅行や趣味、学習活動等への参加を容易にしているのである。

 三つ目は行動力である。

 今や六〇歳七〇歳は、かつての高齢者とは違って体力、気力ともに充分に持ち合わせている。

 行きたい所には行く、やりたいことはやれる、かつては参加できなかったハードな活動にもどんどん参加してきている。

 このように三つの宝物を手にしたことが、生涯現役の生き方を可能にしているといえる。

5.円熟世代の価値観やライフスタイル

 では、生涯現役を指向する円熟世代はどのような人たちか、といういと。行動様式や生活意識あるいは老後の意識に、かつてのシルバー世代と比べ大きく変わってきていることがわかる。(別表−2参照)

 図を詳しく説明すると、心身状態では、かつてのシルバー世代は病弱、陰気、頑固、猜疑的といわれていたのが、生涯現役世代では健康で、明るく元気で、柔軟で、快活である。

 生活の意識では、かつてのシルバー世代は伝統的、保守的、悲観的といわれていたのが、生涯現役世代では希望を持って目標を立てたり、合理的に考えたり、未来指向的で夢に燃えている。

 生活スタイルは、かつてのシルバー世代は質素、倹約、無趣味といわれていたのが、生涯現役世代では持っているお金をうまく使い、余裕をもって趣味やスポーツに生きていきたいと変化してきている。

 老後観では、かつてのシルバー世代は受け身で終末を待つ、また年寄りは年寄りらしく、隠居、余生を送るとという傾向であったが、生涯現役世代ではいつまでも生きているうちは元気で若くいたい、活動的で、明るく元気で、積極的で、死ぬまで元気でいたい、生きている以上は社会とのかかわりを持ち続ける、元気で働けるうちは働く、第二の人生として謳歌する、という考え方の人たちも多くなっている。

 老後の生活では、自分の息子や嫁に頼ろうという人は少なくなり、自分たちで自立し、弱ったときは社会の仕組みになんとかしてもらうという人が増えてきている。また、自分の持っている能力をボランティア活動などで人の役に立てたいと思っている。家族との生活形態では、同居よりは自分たちで生き、子供たちの世話にはなりたくないという人も増えてきている。

 財産の問題では、自分の財産をそのまま子供たちに残していくということでなく、自分の財産は自分で好きなように分配するという意識が強くなってきていて、遺言で分配を決めたり、生前に分与しておくというように変わってきている。

 仕事と余暇の関係については、働くことが中心で余暇は付随しているのだという考え方が、仕事は仕事、余暇は余暇、むしろ余暇のために働くという考えの人も増えてきている。

 行動スタイルについては、趣味やスポーツへの関わり方では、ゲートボールや民謡、盆栽などから体を積極的に動かして元気でやれるテニスや水泳、山登りに挑戦するなど、行動は活発化してきている。旅行も国内の温泉旅行といったものに限らず、海外旅行などに積極的に出掛けるようになっている。

 流行感覚では、服装や身だしなみについても、地味なものから明るく行動的なものに、そして流行にも敏感になってきている。

 このように円熟世代は、かつてのシルバー世代とは価値観やライフスタイルにおいて大きく変わってきていることがわかる。


  別表−2  生涯現役を指向する円熟世代の価値観やライフスタイル

心身状態 ・健康で明るく元気、柔軟で快活である
・健康や体力に強い関心を持ち、常に維持に務めている
・気持ちも体力も若々しい
生活意識 ・希望を持って目標を立てるなど、未来指向で夢を持っている
・持っているお金をうまく使い、余裕を持って生活をエンジョイする
・興味や関心があることには積極的に行動する
・仕事中心でなく余暇も生かしている
・明るく行動的な服装で流行にも敏感である
・趣味やスポーツ等をとおして人とのかかわりを多くつくる
老後の意識 ・生きているうちは元気で若くいたい
・社会とのかかわりを持ち積極的に行動する
・働けるうちは働く
・息子や嫁に頼ろうとせずに自分達で自立して生きていく
・財産は自分で好きなように使うか分配する
・余生でなく第二の人生として生きる

6.六〇歳以降の「アクティブ」な過ごしかたへの提案

 これまでは、生涯現役を指向する世代の特徴について整理してきたが、ここでは、生涯現役を指向する世代のこれからの過ごしかたについて幾つかの提案をしてみたい。


 提案−1 「学びから行動へ」


 まず最初に、「学びから行動へ」を提案したい。


今日、生涯学習ばやりで、学ぶ機会は増大しているが、学ぶだけではアクティブな過ごしかたにならない。

 学んだことを生かして行動につなぐことで、はじめてアクティブな過ごしかたになるといえる。


 アクティブな過ごしかたにするには、学びの機会をとおして同好の人との仲間づくりに発展させる。

 そして、できた仲間で学んだことを社会や人のために生かすことで、本当のアクティブな過ごしかたができるといえる。


 提案−2 「地域の担い手として」


 次に、「地域の担い手として」を提案したい。


 これまでの地域社会は、主に女性の手にゆだねられていたが、今日では多くの女性が積極的に社会参加するようになったために地域社会は空洞化してきている。


 そうすると、三つの宝物を持った、生涯現役指向世代の活躍が期待されるのである。

 自己の満足や充足を満たすことだけでなく、地域社会のために汗を流すことは自分の存在感や使命感が得られるので、生きがいづくりにもなり生きていることの喜びも多くなるといえる。


 提案−3 「新たな人間関係を築く」


 そして最後に、「新たな人間関係を築く」を提案したい。


 最近、家族の個立化、地域社会の人間関係喪失、世代間の断絶とマイナス要因が発生している。

 これらの原因には、現役世代が忙しすぎるために発生しているものも多いのである。


 多くの経験とさまざまな能力を持った生涯現役指向世代が、自分たちの視点からみんなでの視点に行動の意識を変えるだけで、家族や社会の人間関係を改善できるといえる。

 前述したように、生涯現役指向世代は数的な面においても行動的な面においても、その存在は大きいのである。


 したがって、この世代が積極的な社会参加をしていくことは、二一世紀の文化を創造する大きな力になるといえる。


 ということは、新たな価値観と行動力で、円熟世代が高齢者が生活し易い社会を創ることも可能となる。


 高齢者が生活し易い社会を創るということは、子供も若者も女性も誰もが住みやすい社会を創るということになる。


 そのためには、自分たちの自己満足や充足だけの行動を指向するのではなく、社会や多くの人々の役になる行動を指向することも必要である。


 そうすることで、生涯現役指向世代は、現役世代からも期待され、これからの社会の役に立つ存在として重要視されるであろう。




月刊「社会教育」に掲載したものです。
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